カンボジアの税務調査

 申告納税方式(Real Regime Tax System)にて、納税者によりなされた申告内容の正確性、真実性を確認する目的で、税務当局は税務調査を実施しています。税務当局は、現在、書面調査(Desk Audit)、限定調査(Limited Audit)と包括調査(Comprehensive Audit)の3種類の税務調査を実施しています。
 書面調査(Desk Audit)は、納税者からの申告書の内容の査閲や独自に入手した外部からの情報を通してチェックをするもので、その過程で納税者への電話での質問や確認がなされる事もあります。調査官が会社に来て、質問や帳簿類その他の査閲をする、実地調査を伴わない為、企業側からはこの調査が行われているのかどうかは、分かりません。
 限定調査(Limited Audit)は、年度や税目を限定して行なわれる調査で、通常、実地調査を伴います。また、VATや源泉所得税等、月次申告での申告内容が主な対象となっています。
 以上の書面調査と限定調査は、納税者の住所地を管轄する税務署(Tax Branch)や、QIP取得企業や売上高が一定規模以上の企業を対象とする租税総局本部の大規模納税者課(Department of Large Taxpayer)によって行われます。
 包括調査(Comprehensive Audit)は、複数年度かつすべての税目を対象とした実地調査を伴う調査で、租税総局本部の企業調査課(Department of Enterprise Audit)が担当しています。全ての税目が対象ではありますが、年次で申告を行う事業所得税(≒法人税)が主な対象となっています。
 以上の各種の税務調査は、税法に規定の税務当局による情報入手権(Right to receive information、おおよそ日本の質問検査権に該当)が根拠となっており、調査にあたっては事前通知が原則ですが、脱税の疑いがあり証拠隠滅等の恐れがある場合には、事前通知無しで実地調査を行う事が出来る旨の規定もあります。税務調査に協力をしなかったり、妨害行為を行った場合は、税法上の税法執行の妨害とみなされ、罰則の対象となっています。

カンボジアでの給与所得に対する税金(2) Tax on Salary in Cambodia (2)

 カンボジアの給与税(Tax on Salary) については、居住者について、0%~20%までの累進税率となっています。この税率は日本の所得税(所得税と住民税合わせ最高税率50%)よりも税率が低いように見えますが、カンボジアでは所得控除があまり認められていない為、一概に安いとは言えません。
 例えば、日本の給与所得控除にあたるルールがカンボジアにはありません。給与所得控除は、収入金額から、給与を得る為の必要経費、または担税力の調整(給与所得は、資産所得や事業所得と異なり、給与所得者が死亡した場合、直ちに収入がとだえる性質のもので、担税力が低いと考えられます)として一定額を控除するもので、日本では一般のサラリーマンでは収入金額の約20%~40%が控除されており、税額に対してのインパクトは非常に大きい制度です。日本の個人所得税率は所得税と住民税を合わせると最高税率50%の累進税率で、カンボジアより高く見えますが、この給与所得控除がある上に、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除等各種の控除制度があり、所得税の課税ベースが小さくなっています。カンボジアの給与税にはこれらの控除制度がほぼ皆無といってよい状況(扶養控除も月20ドル弱の為)ですので、決して税金が安いとは言えません。
 この事は、日本からカンボジアへ出向し、カンボジアでの居住者として勤務をする事となる駐在員の給与所得への課税で、特に留意が必要です。カンボジアでの勤務から発生した給与は、カンボジア払い、日本払い等支払地を問わず、全額カンボジアの税務当局へ申告、給与税を納付する必要があります。日本払い給与がある場合は、年金加入の継続の為、そこから社会保険料も控除されているのが通常です。日本での所得税計算にあたってはこの社会保険料が所得から控除されますが、カンボジアでの給与税計算にあたって、この社会保険料の控除が可能であるかどうか、税法上明確ではありません。給与所得控除が無く、またこの社会保険料控除もしない場合、給与税の金額は日本の所得税と比べ、安いとは言えない水準となります。 

カンボジアでの給与所得に対する税金(1) Tax on salary in Cambodia (1)

 10月9日にフンセン首相が給与税(Tax on Salary)の課税最低限を月額800,001リエル(約200米ドル)に引き上げる方針を表明しました。10月後半に可決が見込まれる2015年度予算法にこの法改正を盛り込む方針です。もしこの改正が実現した場合、これまでは給与が月額500,000リエル(約125米ドル)以下の場合は非課税でしたが、これが月額800,000リエル(約200米ドル)迄が非課税となり、非課税の恩恵を受ける人が増える、低所得者向けの減税となります。

 カンボジアでは、日本と同様、給与所得は課税の対象ですが、個人の所得の申告制度はありません。納税は雇用者による源泉徴収によって行われ、その後の確定申告での税額の確定手続きを経ずに、納税が完了します。

 雇用者は徴収した税金(源泉預り金)を月次にて申告、納付します。源泉税率は居住者については5%から20%迄の累進税率、非居住者については一律20%です。現在500,000リエル(約125ドル)迄は税率0%とされ、非課税です。また源泉税率を乗じる対象である課税給与所得の計算にあたっては、扶養している配偶者や子供がいれば、一人あたり75,000リエル(約18.75ドル)が控除できます。また、労働法で規定された年金制度や社会福祉制度に関わる保険料等の源泉徴収がある場合には、この源泉徴収分についても課税給与所得から控除可能です。ただ、現在のところ、労働法に基づいて従業員にも負担が求められている社会保障制度は無く、NSSF(国家社会保障基金)については、全額事業者負担である為、この控除とは関係がありません。

 また、給与税が非課税である所得として、業務に必要な範囲での立替経費の精算、解雇補償金、労働法の規定に基づく社会保障的性格をもった追加手当、ユニフォームや業務に必要な器具類の無償又は取得価格を下回る価格での供与、定額の出張旅費手当、が規定され、これらの支払いには給与税は課されません。

 以上がカンボジアの給与所得への課税の概要ですが、カンボジアでの個人への所得課税においては、個人を納税者として登録する制度は、事業所得者を除いてはありません。ですので、カンボジアでの個人への所得課税は非常に弱い状況と言わざるを得ません。

カンボジア税法上の非居住者への支払にかかる源泉税

 他国に本拠を有する法人や居住する個人を、一般に税法上非居住者と呼びますが(各国税法それぞれ規定があります)、事業運営上、非居住者に対して支払いをする際に、どのような支払いについて源泉徴収をし、納税をしなければならないか(源泉税の対象となるか)、については、各国の税法にそれぞれ規定があり、カンボジア税法にも規定があります。
 
 まず、源泉税は、「所得」税ですので、その支払が、支払を受け取る非居住者にとって所得でなければ源泉税の対象になりません。ですので、借入金や立替金の返済、資本金の払い込み等で、非居住者に対して支払をする際は、源泉税の対象になりません。
 
 二つ目に、源泉税は、「カンボジア国内源泉所得」について対象となります。カンボジア国内から非居住者への支払いについて、その支払(所得)がカンボジア国内で稼得されたもので無ければ、カンボジア政府が税金を取る権利がありません。カンボジア税法上、このカンボジア国内で稼得されたもの(カンボジア国内源泉所得)についての規定があります。
 
 三つ目に、すべてのカンボジア国内源泉所得の支払いが源泉税の対象となるわけでは無く、その中の一部であり、カンボジア税法第26条にその対象が規定されています。一般に、非居住者による自発的な申告納税が期待できない所得について、源泉徴収の対象(源泉税の対象)とする事が各国税法上多いです。
 
 カンボジア税法第26条では、源泉税の対象である支払(所得)について、以下のとおり規定しています。

a. 利息
b. ロイヤリティ、賃借料、その他資産の使用に関連する支払
c. 経済財政省の省令(Prakas)に規定する経営・技術サービスに対する支払
d. 剰余金の配当、分配
 
 従いまして、上記の支払い(上記がカンボジア国内源泉所得である場合のみ)をする時にのみ、源泉徴収、源泉税の支払いが必要で、他は必要ありません。
 
 しかし、上記のc. 経済財政省の省令に規定する経営・技術サービスに対する支払、については、現状具体的な定義規定が無い上、税務当局は非常に幅広い解釈を行なっており、問題となっています。
 
 非居住者が申告納税をする仕組みが整っておらず徴税が不十分である一方、源泉徴収義務、源泉税の課税については合理的でない運用が目立ち、非居住者に対する課税の仕組みの再構築が今後のカンボジア税務当局にとっての課題と思われます。

カンボジアの法人税(Tax on Profit、事業所得税)の課税範囲

 カンボジアにおいて、事業所得税(Tax on Profit)の課税範囲は、居住者であるか、非居住者であるかによって異なり、非居住者についてはカンボジア国内源泉所得についてのみが課税の対象となります。
 
 カンボジア税法(Law on Taxation)第3条に居住者についての定義があり、第4条において、第3条に該当しない者でカンボジア国内源泉所得を稼得する者を非居住者と定義しています。

 居住者の定義については、個人については、下記のとおり、規定されております。

1. カンボジア国内に住所を有する
2. カンボジア国内に主たる居所を有する
3. 暦年中に182日超カンボジア国内に滞在している

 法人については、下記のとおり、規定されております。

1. カンボジア国内で設立され、運営されている
2. カンボジア国内に主たる事業所を有する

以上に該当せず、かつカンボジア国内源泉所得を稼得している者が非居住者となります。

 その次に、カンボジア国内源泉所得とは何であるかが問題となりますが、カンボジア税法第33条にカンボジア国内源泉所得とされるものが10種類例示列挙されております。

1. 居住者から支払われた利息
2. 居住法人から支払われた配当、分配金
3. カンボジア国内で提供された役務からの所得
4. 居住者により支払われた経営・技術サービスの対価
5. カンボジア国内に存在する動産・不動産からの所得
6. 居住者(又はカンボジア国内に恒久的施設を有する非居住者)により支払われた無形資産の利用又は利用権から生じたロイヤリティ
7. カンボジア国内に存在する不動産又はその持分の譲渡所得
8. カンボジア国内に存するリスクに対する保険又は再保険の保険料
9. カンボジア国内に恒久的施設を有する非居住者により保有される事業用資産である動産の譲渡所得
10. 非居住者によるカンボジア国内の恒久的施設を通じて稼得された事業所得

カンボジア子会社のタックスヘイブン対策税制適用の可能性

  日本の法人税法上、法人税が無い又は税率が低い国に所在する子会社を利用した租税回避行為を防止する事を目的として、その子会社の所得を日本の親会社の所得と合算して課税する制度があり、タックスヘイブン対策税制と呼ばれています。このタックスヘイブン対策税制上、子会社が法人税率20%以下の国に所在あるいは法人税率が20%以下となるような優遇税制措置を受けている、等の状況がある場合、タックスヘイブン対策税制上の「特定外国子会社等」に該当し、子会社の所得の合算が必要となる可能性があります。

 カンボジアの法人税の税率は20%であり、所得を課税標準とする他の税がありません為、基本的にタックスヘイブン対策税制の対象となり、自社の子会社がこのタックスヘイブン対策税制の適用を受けるかどうかの検討を行う必要があります。

 タックスヘイブン対策税制の主眼は法人税が存在しない国や低税率国にペーパーカンパニーを保有し、そのペーパーカンパニーに所得を移転、留保させる事で、不当に租税負担を回避する事を防止する事にあります。従いまして、その所在地国での事業を行う目的で法人を設立し、実際に事業を行っている限り、適用されません。この判定にあたって、適用除外要件という4つの要件(事業基準、実体基準、管理支配基準、非関連者基準又は所在地国基準)の全てを満たすかどうか、が検討されます。

 その上で、カンボジア子会社が上記要件を満たし、合算課税の適用を回避できるとしても、資産性所得(剰余金の配当等、債券利子、債券の償還差益、株式等の譲渡所得等、能動的な事業活動に基づかない所得)については、合算の対象となります。ただ、その所得が少額である場合の除外基準があり、事業年度の資産性所得(持分割合に対応する部分)が1,000万円以下である又は税引前所得の5%以下である場合は、適用されません。

 事業活動と直接の関係の無い多額の資産性所得を得ているようなケースでは、具体的な検討が必要になるものと思われます。

カンボジアのVATの仕入税額控除、還付

 法人等の申告納税方式の適用事業者(Real Regime Taxpayer)は、その事業に行うにあたって支払ったVAT(仮払VATInput VAT)を、その事業からの売上から発生したVAT(仮受VATOutput VAT)から控除が出来ます。また、控除すべき仮受VATが無い場合は、支払ったVATは税法上還付の対象となります。

 VATの納税は月次申告にて毎月行いますが、この月次申告の都度、当月発生の仮受VATから当月発生した仮払VATを控除し、納税を行います。また、控除しきれなかった仮払VATは翌月以降に繰越す事が出来、翌月以降に発生した仮受VATから控除ができます。

 この控除や還付の対象となる仮払VATとして認められる為には、下記等を満たしている必要があります。(Prakas on VAT 272項等)

・ 事業の目的で支払ったものである事
・ VAT登録日から60日超前に発生した取引や輸入にかかるものではない事
・ 国内取引の場合はVATインボイス、輸入取引の場合は輸入通関申告書類の原本を保持している事

 仮払VATの控除や還付は、あくまでも事業目的で支払ったVATについて認められるものですので、事業とは関係のない取引であったり、医療サービス等の非課税取引の為に支払ったVATは、対象として認められません。

 また、以下の取引から発生した仮払VATについては、控除が認められておりません。(カンボジア税法69条、Sub-Decree on VAT 31条、Prakas on VAT 30条)

・ 交際費、遊興費について発生した仮払VAT(事業として提供するサービスが交際費、遊興費に該当する事業を行っている者を除く)
・ 自動車の購入又は輸入(事業として自動車販売を行なう者を除く)
・ 特定の石油関連商品の購入又は輸入(事業として当該特定の石油関連商品販売を行なう者を除く)

 なお、まだ実務面での運用が確認されておりませんが、年度毎に当期中の仮払VATについて、課税売上割合に応じて、控除可能なVATの合計額を算出し、差額についての納付や控除可能額の増額を行なう手続きが規定されております。


請求書発行時の注意点(VATインボイス)


 会社等の法人(VAT登録者)が顧客へ請求書を発行する際、相手方がVAT登録者である場合は、VATインボイスの形式にて請求書を発行しなければなりません。
 VATインボイスの形式である為には、下記の要件を満たす必要があります(カンボジア税法第77条、VATに関する政令第42条、VATに関する経済財政省令第42条)。
  • 連番である事
  • VAT Invoiceである事を示すタイトル
  • 請求書上に下記の記載
    • 売主の名称及びVAT番号
    • 請求書発行日
    • 買主の名称及びVAT番号
    • 取引対象の数量、内容、単価
    • 特定商品・サービス税及びVAT等考慮前の取引金額(VATの課税標準)
    • VATの金額
    • 取引対象の物品やサービスの提供日(もし請求書発行日と異なる場合)

 また、VAT登録者である買主は、VAT登録者である売主に対して、VATインボイスの発行を求める事が出来ます。
 このVATインボイスの発行を怠った場合には、罰則があり、2回以上税務当局によりインボイスの不発行を認められた場合、税務当局は違反の都度、7日間を上限に事業所の閉鎖を命令できます(カンボジア税法第78条)。
 買主がVAT登録者でない場合は、VATインボイスの形式である必要はありません(コマーシャルインボイスと呼ばれます)。

 また、VATインボイスに関連する注意点として、取引が役務提供であり、売主であるVAT登録者がVATインボイスの発行を怠り、要件を満たさない請求書の発行を行なっていた場合、税務当局が、買主側にVAT非登録者からの役務提供を受けた場合に要求される源泉徴収税15%(カンボジア税法第25条第1項a.1)を課す事例が確認されております。
 会社等のVAT登録者は、VAT登録者である売主からの請求書発行を受ける場合は、VATインボイスの要件を満たしているかを確かめ、異なる場合は発行を求める事が重要です。

カンボジアの付加価値税(VAT)

 付加価値税(VAT)は、VAT納税義務者により行われたカンボジア国内での取引に課せられるもので、VAT納税義務者は取引価格の10%を付加価値税として取引時に徴収、翌月に税務署に納付する義務があります。

 税法上、申告納税方式を適用する事業者(Taxpayer under real regime tax system)はVAT納税義務者であり(カンボジア税法第59条)、会社を初めとする法人は、申告納税方式適用が義務付けられておりますので、したがって法人は全てVAT納税義務者です。申告納税方式とは、月次申告及び年次申告の形での申告及び納税を求められている者の事です。

 カンボジア国内での取引の多くはVAT課税対象ですが、税法では、主に社会政策的な観点より、一部の取引を非課税としています。カンボジア税法第57条では、公共郵便サービス、医療サービス、公共機関による旅客輸送サービス、保険サービス等、7項目が非課税取引とされています。また、土地及び貨幣はVAT法上は物品(goods)に該当せず(カンボジア税法第56条)、VAT非課税です。また、輸出取引は0%課税取引として規定され、課税されません(カンボジア税法第64条第2項)。

 VAT納税義務者は、VAT納税義務者である相手方に請求書を発行する時は、VATインボイスの形式である必要があります(カンボジア税法第77条、VATに関する政令(Sub-Decree)第42条、VATに関する経済財政省令(Prakas)第42条)。VATインボイスには、売主、買主双方の名称、VAT番号、インボイス発行日、取引対象の内容・数量・単価等税法に規定された項目が全て記載されている必要があります。このVATインボイス発行の義務を怠った場合、税法上罰則の対象となっています(カンボジア税法第78条)。なお、買主がVAT納税義務者でない場合は、VATインボイスである必要はありません。

 上記の形で買主より徴収したVATは、当月分を翌月に月次申告にて納税する必要がありますが、この申告納税時に当月中に支払ったVATを控除できます(カンボジア税法第65条第1項、仕入税額控除)。控除をする為には上記のVATインボイスを入手している必要があり、税務署によっては月次申告時にインボイスのコピーの添付が要求されています。 
 

カンボジア子会社勤務の駐在員の親子会社間の給与負担決定上の留意点

 1年を通じて、カンボジア子会社で勤務している駐在員の給与については、その給与はカンボジア子会社の事業の為の費用であり、原則カンボジア子会社の費用とすべきと考えられます。

 しかし、カンボジア子会社の経営状況によっては、駐在員への給与全額を負担する事が出来ない場合等もあります。そこで、日本の税法は、出向元である日本の本社による海外子会社への出向者の給与負担を、ある程度迄許容しています。

 法人税基本通達9-2-47では、「出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補てんするため出向者に対して支給した給与の額は、当該出向元法人の損金の額に算入する。」としています。これは、カンボジア子会社での給与水準が日本と違う場合、その給与水準との較差については、日本本社で負担をしても、日本本社での法人税計算上損金として認める、との理解となります。

 なお、この給与条件の較差の補填については、金額や割合的な基準はありませんが、補填の限度を超えていると日本の税務当局からみなされた場合は、日本本社での法人税計算上、国外関連者に対する寄附金とみなされて、全額損金不算入となり、税務上のインパクトは大きいものとなります。カンボジア子会社負担額が適正であり、その較差について日本本社が負担しているという事を、カンボジアの賃金水準についての公的な統計データ等に基づいて、説明できるようにしておく必要があります。

 ところで、カンボジア子会社勤務の駐在員の給与については、カンボジア子会社にて負担すべきではありますが、日本での給与支払が無くなった場合、日本本社との雇用契約は継続していないとみなされ、厚生年金等の社会保険の被保険者資格を喪失する可能性が高くなりますので、駐在員への福利厚生上、本社と子会社双方で給与支給をする事が一般的となっています。

カンボジアのフリンジベネフィット(付加給付)税

 カンボジア税法第48条に給与税の一部として、付加給付税(フリンジベネフィット税)の規定があります。従業員に提供された付加的給付の公正価額の20%を源泉徴収し、納税するルールとなっております。この付加給付税の対象となる「付加給付」の定義については、税法本体には規定が無く、「給与税に関する経済財政省令」(Prakas on Tax on Salary, No.1173 MoEF.TD.Prk)(以下、給与税省令)の第3-1条に規定があります。

給与税省令第3-1条第1項には、「付加給付には、物品、サービス、現金その他、雇用主の為の労働の対価として、自然人に直接又は間接になされた給付を含む」との文言がありまして、第2項に対象となる14項目の給付が、例示列挙されております。その中には、すべての種類の車両、食事、住居、水道光熱費、通信費、家事労働代行費用、市場利率より低い貸付等があり、例示列挙であるので、この14項目に限らず第1項に該当するあらゆる給付が含まれます。

3-2条は、車両についての付加給付税の免除規定となっており、業務時間外は業務上のスペースに駐車している事、業務時間外に特定の従業員やその家族の用に供されていないこと、従業員又はその関係者の個人的な業務に利用されていない事、の3点を要件に、付加給付税を免除しています。

特に日系製造業では、労働者の食事代や寮費等を福利厚生として提供するケースが多く、これらはカンボジアの労働者の福利増進、生活安定へつながり、カンボジア経済に好ましい効果をもたらすと考えられます。現状の付加給付税の規定は、このような効果を阻害するもので、ある一定額迄を非課税としたり、一般の給与税と同様の累進税率とする、等の改善が期待されています。

カンボジアで飲食業を開業するにあたっての税務上の留意点

 飲食店を開業した場合の税務申告については、基本的に他業種と変わりませんが、酒類やたばこ類の販売が伴う場合には、月次申告において販売した全ての酒類及びたばこ類の売価の3%の公共照明税(Public Lighting Tax)を申告、納税する必要があります。これは、主に法人に適用される実態管理様式課税制度(Real Regime Tax System)、主に個人事業主に適用される推定管理様式課税制度(Estimated Regime Tax System)のいずれにおいても、納税の必要があります。

上記の税額計算をする為に、酒類及びたばこ類からの売上と、他の売上とを分けて記録をしておく必要があります。推定管理様式課税制度適用の個人事業主の場合で、売上を分けて管理する事が出来ないような状況である場合には、税務職員が納税者への質問や関連資料の査閲等で、売上の割合を判定し、課税するケースがあります。

また、この公共照明税の3%については、販売時に売価に上乗せして顧客から徴収する形、顧客から徴収せず事業者が負担する形、いずれでも問題はありません。

 なお、この公共照明税に類するものとして、特定商品・サービス税(Specific Tax on Certain Merchandises and Services)があります。これは、一定の課税対象の商品・サービスについて課される税金で、対象品目には、商品では、ビールやたばこ、ソフトドリンク等、サービスでは国外への航空輸送、国外への通信サービス、ホテルサービス、娯楽サービス等があります。ただ、この税は、商品については、課税品目の輸入者若しくは製造者に課せられるものですので、カンボジア国内の卸売業者からビールやたばこを仕入れて、店舗で販売する限り、この税の納税の必要はありません。