カンボジアでの給与所得に対する税金(2) Tax on Salary in Cambodia (2)

 カンボジアの給与税(Tax on Salary) については、居住者について、0%~20%までの累進税率となっています。この税率は日本の所得税(所得税と住民税合わせ最高税率50%)よりも税率が低いように見えますが、カンボジアでは所得控除があまり認められていない為、一概に安いとは言えません。
 例えば、日本の給与所得控除にあたるルールがカンボジアにはありません。給与所得控除は、収入金額から、給与を得る為の必要経費、または担税力の調整(給与所得は、資産所得や事業所得と異なり、給与所得者が死亡した場合、直ちに収入がとだえる性質のもので、担税力が低いと考えられます)として一定額を控除するもので、日本では一般のサラリーマンでは収入金額の約20%~40%が控除されており、税額に対してのインパクトは非常に大きい制度です。日本の個人所得税率は所得税と住民税を合わせると最高税率50%の累進税率で、カンボジアより高く見えますが、この給与所得控除がある上に、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除等各種の控除制度があり、所得税の課税ベースが小さくなっています。カンボジアの給与税にはこれらの控除制度がほぼ皆無といってよい状況(扶養控除も月20ドル弱の為)ですので、決して税金が安いとは言えません。
 この事は、日本からカンボジアへ出向し、カンボジアでの居住者として勤務をする事となる駐在員の給与所得への課税で、特に留意が必要です。カンボジアでの勤務から発生した給与は、カンボジア払い、日本払い等支払地を問わず、全額カンボジアの税務当局へ申告、給与税を納付する必要があります。日本払い給与がある場合は、年金加入の継続の為、そこから社会保険料も控除されているのが通常です。日本での所得税計算にあたってはこの社会保険料が所得から控除されますが、カンボジアでの給与税計算にあたって、この社会保険料の控除が可能であるかどうか、税法上明確ではありません。給与所得控除が無く、またこの社会保険料控除もしない場合、給与税の金額は日本の所得税と比べ、安いとは言えない水準となります。 

カンボジアでの給与所得に対する税金(1) Tax on salary in Cambodia (1)

 10月9日にフンセン首相が給与税(Tax on Salary)の課税最低限を月額800,001リエル(約200米ドル)に引き上げる方針を表明しました。10月後半に可決が見込まれる2015年度予算法にこの法改正を盛り込む方針です。もしこの改正が実現した場合、これまでは給与が月額500,000リエル(約125米ドル)以下の場合は非課税でしたが、これが月額800,000リエル(約200米ドル)迄が非課税となり、非課税の恩恵を受ける人が増える、低所得者向けの減税となります。

 カンボジアでは、日本と同様、給与所得は課税の対象ですが、個人の所得の申告制度はありません。納税は雇用者による源泉徴収によって行われ、その後の確定申告での税額の確定手続きを経ずに、納税が完了します。

 雇用者は徴収した税金(源泉預り金)を月次にて申告、納付します。源泉税率は居住者については5%から20%迄の累進税率、非居住者については一律20%です。現在500,000リエル(約125ドル)迄は税率0%とされ、非課税です。また源泉税率を乗じる対象である課税給与所得の計算にあたっては、扶養している配偶者や子供がいれば、一人あたり75,000リエル(約18.75ドル)が控除できます。また、労働法で規定された年金制度や社会福祉制度に関わる保険料等の源泉徴収がある場合には、この源泉徴収分についても課税給与所得から控除可能です。ただ、現在のところ、労働法に基づいて従業員にも負担が求められている社会保障制度は無く、NSSF(国家社会保障基金)については、全額事業者負担である為、この控除とは関係がありません。

 また、給与税が非課税である所得として、業務に必要な範囲での立替経費の精算、解雇補償金、労働法の規定に基づく社会保障的性格をもった追加手当、ユニフォームや業務に必要な器具類の無償又は取得価格を下回る価格での供与、定額の出張旅費手当、が規定され、これらの支払いには給与税は課されません。

 以上がカンボジアの給与所得への課税の概要ですが、カンボジアでの個人への所得課税においては、個人を納税者として登録する制度は、事業所得者を除いてはありません。ですので、カンボジアでの個人への所得課税は非常に弱い状況と言わざるを得ません。