例えば、従業員が国外へ出張した際に宿泊したホテル代や利用したタクシー代の支払いを会社の経費とする場合に、その支払いについて14%の源泉税を求めるケースです。
源泉(徴収)税はその名のとおり、対価の支払い時に一定率を差し引いた上で相手方に支払い、差し引いた分を税務署に納める税であり、ここで税金を負担するのは対価の支払いを受ける者であり、納税者(税金を納める者)と担税者(税金を負担する者)が異なる点にその特徴があります。上記の例において、国外でのホテル代やタクシー代に源泉税を求めるという事は、その当該国外のホテルやタクシー会社が税金を負担する事を意味します。ただ現実的にはその場面で14%を差し引いて支払う事は不可能である為、自社で負担する事になるでしょう。
このような指摘が行われている一つの大きな要因は、国際課税の「通則」ともなっているソース・ルールに対する理解が税務職員に徹底していない事にあります。ソース・ルールとは所得課税についての原則であり、ある所得についてどの国が課税する権利を持っているのかを決める国際的なルールです。上記の例にあてはめると、前述のホテルやタクシー会社が得た所得(ホテル代やタクシー代)について、どの国が課税を行う権利を持っているのかという問題に関わります。
カンボジア税法第33条(Law on Taxation, Article 33 (New))に、カンボジア国内源泉所得についての規定があります。そして、第3項に「カンボジア国内で提供したサービスから得た所得」がカンボジア国内源泉所得である旨の規定があります。また、第4項に「居住者が支払った経営・技術サービスについての対価」についてカンボジア国内源泉所得である旨の規定があります。第4項についてはサービスの提供地についての言及はありません。そして、第34条は、「第33条に規定するカンボジア国内源泉所得に該当しない所得はカンボジア国外源泉所得として取扱う」と規定しております。
上記の例にあてはめると、非居住者であるホテルやタクシー会社が、当該国内においてホテル宿泊やタクシーでの輸送というサービス提供から得た所得は、それが行われたのはカンボジア国外であるのだから、第3項によればカンボジア国内源泉所得にあてはまらず、また第34条よりカンボジア国外源泉所得と取り扱われるべきはずです。そして、非居住者が得たカンボジア国外源泉所得に対して、カンボジアに課税権があるはずはなく、源泉徴収を求める権利はありません。
しかし、このホテルやタクシー会社による所得を、第4項の「居住者が支払った経営・技術サービスについての対価」とみなし、この規定にはサービス提供地についての文言が無いので、国外であっても源泉税を要求するケースがあります。
これは解釈としてはあまりにも広すぎ、また国際課税のルールから逸脱するものでもあり、指摘があった場合には毅然と対応する事が必要です。