カンボジアでの事業所得への2種類の課税制度

 20131010日付で租税総局より、税務登録を行なっていない企業の多い現状を受けて、個人企業及び法人企業の税務登録義務の概要が公表されております。

カンボジアでの事業所得者への課税制度は、現状、申告納税方式(Real Regime Tax System, Self-Assessment System)と推計課税方式(Estimated Regime Tax System, Official Assessment System)2種類があります(税法上、Simplified Regime Tax Systemについての規定がありますが、現在運用が始まっておりません)。推計課税方式は、申告によってではなく、租税総局による課税処分によって税額が確定する方式(賦課課税)です。

上記の2種類の課税制度のうち、会社を含む法人については、申告納税方式により納税を行なわなければなりません(Prakas on Profit Tax, Article 12.2)。この制度ではVATを初めとする複数の税目についての月次申告、事業所得税(Tax on Profit、≒法人税)の年次申告が要求されます。

個人企業の場合は、下記のいずれかの基準にあてはまる場合は、申告納税方式による納税が必要です(Prakas on Profit Tax, Article 12.2)。

●売上高による基準
 ・事業が物品販売である場合 年間売上高5億リエル以上(約125,000ドル)

・事業が役務提供である場合 年間売上高25,000万リエル以上(約62,500ドル)

・事業が政府契約である場合 年間売上高12,500万リエル以上(約31,250ドル)

●事業の種類による基準

 ・事業の種類が輸出入業又はQIPである

上記を満たさない場合は、推計課税方式により納税を行ないます。

税務登録を行なわず、納税を行なっていない者については、租税総局の決定により税額が確定され、さらに確定した税額の40%の加算税と月2%の延滞税が課せられます。また、他方で、税法上の「税法執行の妨害」に該当し、罰金が科せられます。

特にカンボジア資本の企業については税務登録、納税を行なっていない事が珍しくない現状がありますが、今回発表の概要は、租税総局が今後未登録企業の税務登録を進めていく姿勢を示したものと思われます。


日本親会社からカンボジア子会社への親子ローンの金利設定についての留意点

 カンボジア租税総局より、借入金の金利に対する課税についての通達(Instruction on tax determination for loan without interest or with interest lower or higher than market interest rate)が今年102日に公表され、借入金金利への課税についての租税総局の方針が明確にされました。  

 これまで借入金が無利息であった場合、租税総局が「みなし利率」”Deemed interest”を設定して、その利率から計算した利息について源泉徴収税(非居住者への利息支払には14%、居住者への利息支払には15%)を課税する、という実務がありました。今回公表の通達は、無利息の借入金や「市場金利」を下回る金利の借入金について、この「みなし利率」の設定やそれに基づいた課税処分を行なわない事を明確にしました。

 この通達によって、借入金の金利設定について、「市場金利」を上回る設定をしない限り、その自由度が高まったと言えます。

 一方、日本の親会社とカンボジア子会社との間の金銭貸借取引は、日本での移転価格税制の対象です。検討している借入と、時期や期間、条件等が同等である比較対象取引があれば、それに基づいて金利を決定する形となります。そのような取引が無い場合は、下記の順番で検討していきます。
 
① 借手(カンボジア子会社)が銀行等から同様の条件のもとで借り入れたとした場合に付されるであろう利率

② ①の方法が適用できない場合には、貸手(日本親会社)が銀行等から同様の条件の下で借り入れたとした場合に通常付されたであろう利率

③ ②の方法も適用できない場合には、同様の条件で国債等で運用した場合に得られたであろう利率
加えて、日本の親会社が他の海外子会社への貸付を行っている場合には、その金利との整合性に留意する必要があります。 
 特に、上記①に基づいて検討する場合には、カンボジアの金利水準を参照する事となる為、注意が必要です。

 

日本本社からカンボジア現地法人への出張者の所得税の税務上の取扱い

 日本からの出張者は、日本国内に「住所」(個人の生活の本拠)を有する場合、日本の所得税法上、日本の居住者であり、一方でカンボジア国内には「住所」は無く、また年間182日を超えてカンボジア国内に滞在していない為、カンボジア税法上、カンボジアの非居住者となります。

以上の事実は、これをもって、カンボジア国内での勤務に起因する給与所得について、カンボジアで税金を納めなくても良いという事を意味する訳ではありません。

 給与税に関する経済財政省令(Prakas on Tax on Salary, No.1173 MoEF.TD.Prk) 第1.3条第4項に関連する規定があります。下記の条件を満たした場合にのみ、税金の支払いを免除されます。

 1. カンボジア国内に直近12か月間で182日を超えて滞在していない事

2. その給与が、カンボジア居住者でない者から支払われている事

3. その給与が、カンボジア国内の恒久的施設又はカンボジア国内の雇用者によって運営されている特定の業務拠点による債務ではない事

国外で受けたサービス提供に対する支払いについて源泉税を求められる事例について

 カンボジアの源泉税(Withholding Tax)については、その運用面で多くの問題点が指摘されておりますが、その代表的なものの一つに、国外で受けたサービス提供に対して支払った対価について、非居住者に対する支払にかかる14%の源泉税を、調査官が要求するケースがあります。

 例えば、従業員が国外へ出張した際に宿泊したホテル代や利用したタクシー代の支払いを会社の経費とする場合に、その支払いについて14%の源泉税を求めるケースです。
源泉(徴収)税はその名のとおり、対価の支払い時に一定率を差し引いた上で相手方に支払い、差し引いた分を税務署に納める税であり、ここで税金を負担するのは対価の支払いを受ける者であり、納税者(税金を納める者)と担税者(税金を負担する者)が異なる点にその特徴があります。上記の例において、国外でのホテル代やタクシー代に源泉税を求めるという事は、その当該国外のホテルやタクシー会社が税金を負担する事を意味します。ただ現実的にはその場面で14%を差し引いて支払う事は不可能である為、自社で負担する事になるでしょう。

 このような指摘が行われている一つの大きな要因は、国際課税の「通則」ともなっているソース・ルールに対する理解が税務職員に徹底していない事にあります。ソース・ルールとは所得課税についての原則であり、ある所得についてどの国が課税する権利を持っているのかを決める国際的なルールです。上記の例にあてはめると、前述のホテルやタクシー会社が得た所得(ホテル代やタクシー代)について、どの国が課税を行う権利を持っているのかという問題に関わります。

 カンボジア税法第33条(Law on Taxation, Article 33 (New))に、カンボジア国内源泉所得についての規定があります。そして、第3項に「カンボジア国内で提供したサービスから得た所得」がカンボジア国内源泉所得である旨の規定があります。また、第4項に「居住者が支払った経営・技術サービスについての対価」についてカンボジア国内源泉所得である旨の規定があります。第4項についてはサービスの提供地についての言及はありません。そして、第34条は、「第33条に規定するカンボジア国内源泉所得に該当しない所得はカンボジア国外源泉所得として取扱う」と規定しております。

 上記の例にあてはめると、非居住者であるホテルやタクシー会社が、当該国内においてホテル宿泊やタクシーでの輸送というサービス提供から得た所得は、それが行われたのはカンボジア国外であるのだから、第3項によればカンボジア国内源泉所得にあてはまらず、また第34条よりカンボジア国外源泉所得と取り扱われるべきはずです。そして、非居住者が得たカンボジア国外源泉所得に対して、カンボジアに課税権があるはずはなく、源泉徴収を求める権利はありません。

 しかし、このホテルやタクシー会社による所得を、第4項の「居住者が支払った経営・技術サービスについての対価」とみなし、この規定にはサービス提供地についての文言が無いので、国外であっても源泉税を要求するケースがあります。

 これは解釈としてはあまりにも広すぎ、また国際課税のルールから逸脱するものでもあり、指摘があった場合には毅然と対応する事が必要です。









カンボジアでの個人事業にあたっての税務、商業登記上の留意点

 カンボジアで個人で事業を行う場合、事業開始の15日前迄に商業省に個人事業者(Sole Proprietorship)としての登記が必要です(Law on Amendment to Law on the Commercial Regulations and Commercial Register, Article 14 new)。

 また、事業開始後15日以内に、税務署に税務登録を行う必要があります(Law on Taxation Article101)。

 納税には以下の2つの方式があります。

1. 申告納税方式(Real Regime Tax System) での納税

 個人事業者が、申告納税方式での税務申告の対象となるか否かの基準は、その事業活動の種類と売上高によって、事業所得税に関する経済財政省令(Prakas on Tax on Profit, No.1173 MEF.PrK.TD, 31 December 2007)第12.2条に定められております。

 事業活動の種類については、輸出入業又は投資適格プロジェクトについては、売上高に関わらず、申告納税方式での申告が必要と規定されています。※投資適格プロジェクトは現状個人事業者には認められておりません。

 売上高については、事業活動の種類が物品販売、サービス提供、政府契約のいずれに該当するかによって、基準となる売上高が異なっており、そのそれぞれの売上高を超えた場合、申告納税方式での申告が要求されております。

 申告納税方式の適用事業者となると、月次の税務申告が要求され、VAT、源泉所得税、給与所得税の徴収・納付義務、事業所得税の前払義務が発生し、また事業所得税について、年次での発生主義ベースの会計に基づく課税所得、税額計算が要求されます。

2. 推計課税方式(Estimated Regime Tax System) での納税

 上記の基準を満たさない個人事業者は、申告納税方式での税務申告の必要はありませんが、推計課税方式という別の方式によって、事業所得税の納付を行う必要があります。

 推計課税方式での税務申告の概要は以下のとおりです。

・ 毎年10月31日迄に税務当局に対して税務申告を行う
・ 課税のベースとなる推定利益(Estimated Profit)は税務当局が事業者に対して行う質問や確認作業をとおして、利益率や事業活動の種類に基づいて計算される
・ 納税者は税務当局によって決定された税額を毎月支払う

 以上、カンボジアでの個人事業にあたっては、商業省への登記の上で、申告納税方式又は推計課税方式による納税が必要です。
なお、税法上に規定されている簡易課税方式(Simplified Regime Tax System)については、現状まだ運用されていません。