租税不服審判委員会(Tax Dispute Resolution Committee)の設立

租税不服審判委員会(Tax Dispute Resolution Committee (T.D.R.C))の設立
 2016年1月6日に、「租税不服審判委員会の組織及び機能についての内閣令」(Sub-Decree on the Organization and Functioning of the Tax Dispute Resolution Committee (T.D.R.C)))が公布、即日施行されました。
 
 カンボジア税法上、納税者が税務当局による税務調査等の結果、追徴課税等の更正処分等を受ける等、不利益な処分を受けた場合に、不服を申し立てる事ができる制度があります。①処分庁(課税処分等を下した管轄部局)に対する異議申立て、②当該異議申立てについて処分庁がなした決定に不服であった場合の租税仲裁委員会(Tax Arbitration Committee)への審査請求、③当該審査請求について租税仲裁委員会がなした採決に不服であった場合の裁判所への訴えの提起、と二段階の行政による救済制度、及び最終的な司法による救済制度が用意されています(カンボジア税法121条~124条)。しかし、これまで、租税仲裁委員会については、税法上内閣令(Sub-decree)によって組織及び機能を定める(カンボジア税法123条)としていたものの、当該内閣令が作成されず、存在しておりませんでした。実務上は、存在しない租税仲裁委員会の代わりに、租税総局内部の訟務部門(Litigation Bureau)が、審査機能を担っておりましたが、十分に機能せず、未処理の申立案件が増えていく状況にありました。
 
 上記内閣令は、上記カンボジア税法123条に規定する租税仲裁委員会に相当する機関の組織及び機能に関するものです。

租税不服審判委員会(T.D.R.C)の概要
 委員会は、以下の5名によって構成されるとし、また経済財務省令によって、具体的な構成が定められるとしています。

委員長(1名) 経済財務大臣
副委員長(1名) 経済財務次官
委員(3名) 国家会計評議会代表、経済公共財政総局総局長、内部監査総局総局長
 
 委員会の任務として、租税総局(税務署)、関税消費税総局(税関)その他関係機関による租税に関する処分を直接受けた納税者による、当該処分についての不服申立についての審査及び決定、としています。委員会は必要に応じて、関係者を呼出し、説明を求める事が出来、特に租税総局長及び関税消費税総局長は、委員会の呼出しに応じ、納税者からの不服申立てについて説明する義務があるとしています。

 進出企業にとって、税務調査等において、不合理な指摘や処分を受ける機会は非常に多く、異議申立てを行っている企業が多い状況の中、より公正かつ迅速な紛争処理の実現が期待されます。

請求書についてのルールが変わりました。

 2016年1月26日に経済財務省租税総局より公布、即日施行されましたInstruction No.1127にて、新制度の申告納税方式適用事業者について、請求書ルールの変更及び明確化がなされました。

下記が新しい請求書ルールの主な内容です(太字は新ルールで新たに加わったものです)。

● 請求書に下記を記載する事
 ・ 発行者の氏名又は名称、住所、VAT番号
 ・ 請求書番号、請求書発行日
 ・ 請求書の交付を受けた者の氏名又は名称、住所、その者が申告納税方式適用事業者である場合はVAT番号
 ・ 取引内容、数量、単価
 ・ 取引対価の金額、VATの金額
● 請求書の印字の質及び紙が保存に適するものにする事
● 請求書の記載はクメール語又はクメール語と英語の併記である事、併記の場合は英語はクメール語の下に記載する事
● 請求書発行時は、申告納税方式適用事業者に対してはタックスインボイス形式、それ以外の者に対してはコマーシャルインボイス形式にて発行する事
● 請求書は事業年度を通じ、通し番号を付番し、10年間保存すること

 また、本Instructionでは、請求書について4種類のサンプルを開示しており、①タックスインボイス、②コマーシャルインボイス、③キャッシュレジスターで発行のタックスインボイス、④キャッシュレジスターで発行のコマーシャルインボイス、となっています。

 上記の記載要件を満たさない請求書については、交付を受けた事業者は、VAT計算上の仕入税額控除だけでなく、法人税計算上の損金算入も認められません。

 特にタックスインボイスについては、商品の引渡時又は役務提供時から7日以内に発行が義務付けられ、発行を怠った事業者については、税法上事業所の閉鎖等の処分が規定されています。

 日本においても、消費税課税の適正化に向けて、インボイス方式の導入が議論されていますが、事業者の事務負担を配慮し、経過措置や簡易課税制度の継続が検討されています。新制度の申告納税方式適用事業者には、旧推計課税方式適用事業者が多く含まれており、本ルールの納税者への周知徹底には、かなりの時間がかかると思われ(免税事業者(年間売上高約62,500ドル以下)は上記ルールの適用を受けないと思われます)、要件を満たした請求書を受領する事に非常に手間がかかる状況が続くと思われます。一方、要件を満たした請求書を申告書に添付、保管出来ない場合は、VAT計算上の仕入税額の控除が認められず、また法人税計算上は当該支出は損金不算入、さらに取引内容が役務提供であった場合は源泉税15%が課税され、非常に厳しい取扱いを受ける事となります。節税上上記要件を満たした適切な請求書を受領し、証憑として保管する事が重要です。

カンボジアでの納税制度が改正されました。

推計課税方式の廃止、申告納税方式への一本化
 2015年12月17日に公布、施行されました2016年度財政法(The Law on Financial Management 2016)にてこれまでの納税制度が大きく改正されました。これまで、一定の年間売上高以下の事業者に適用されていた推計課税方式(Estimated Regime System of Taxation, Official Assessment System)が廃止され、申告納税方式(Real Regime System of Taxation, Self Assessment System)に一本化されました。
新しい方式の下では納税者は年間売上高や事業形態等によって以下の3つに区分されます。

● 小規模納税者 (Small Taxpayers)
個人事業者(Sole Proprietorship)又は組合(Partnership)であり、かつ下記のいずれかを満たす者
 ・ 年間売上高が2億5千万リエル(約62,500米ドル)超、7億リエル(約175,000米ドル)以下の事業者
 ・ 事業年度内に終了するいずれかの連続する3か月間の売上高が6千万リエル(約15,000米ドル)超の事業者
 ・ 翌月以降3か月間の予想売上高が6千万リエル(約15,000米ドル)超の事業者

● 中規模納税者 (Medium Taxpayers)
下記のいずれかを満たす者
 ・ 年間売上高が7億リエル(約175,000米ドル)超、20億リエル(約500,000米ドル)以下の事業者
 ・ 法人
 ・ 地方政府、協会、NGO

● 大規模納税者 (Large Taxpayers)
下記のいずれかを満たす者
 ・ 年間売上高が20億リエル(約500,000米ドル)超の事業者
 ・ 外国法人の支店
 ・ QIP認定事業者
 ・ 国、外国の大使館及び領事館、国際機関、外国技術援助機関
 
 小規模納税者の売上高基準に満たない、小規模、零細事業者については、推計課税方式も適用されず、納税義務が免除となります。
 他方で、これまで推計課税方式が適用され、月次や年次での申告、納税が求められていなかった事業者についても、上記の小規模納税者に該当する場合は、今後月次、年次申告が求められます。
 
 実際の上記納税者区分の適用や区分の変更については、租税総局より今後通知があるものと思われます。
 
パテント税の改正
 2016年度パテント税についても改正があり、上記の3区分に応じて、下記のとおりとなっています。

● 小規模納税者
40万リエル(約100米ドル)

● 中規模納税者
120万リエル(約300米ドル)

● 大規模納税者
・ 年間売上高100億リエル(約250万米ドル)以下
300万リエル(約750米ドル)
・ 年間売上高100億リエル(約250万米ドル)超
500万リエル(約1,250米ドル)

簡易的な方法での会計記録作成
 従前の推計課税方式の事業者については、会計帳簿の整備が求められていませんでしたが、小規模納税者に該当する場合は、簡易的な方法での会計記録の作成が求められております。

事業所得税(≒法人税)の対象となる所得について

 事業所得税(Tax on Profit、≒法人税)の対象となる所得については、カンボジア税法(Law on Taxation)第7条に「事業者(Enterprise)による全ての活動から稼得された所得」が事業所得税の課税所得であると規定されています。この全ての活動の所得には、資産の譲渡益や、利息、有形資産及び無形資産の使用料他財務活動や投資活動からの収益が含まれると、同条に規定されています。また、事業所得税に関する経済財政省令(Prakas on the Profit Tax)第2.2条第3項第a号で、「当該課税期間期末の株主資本の金額と、当該課税期間期首の株主資本の金額の差額から、全ての追加の資本取引を除いたもの」と規定されており、いわゆる資本等取引を除いた全ての損益取引が、事業所得税の課税所得を構成する旨、規定されており、カンボジア税法第7条の「全ての活動から稼得された所得」という定義を補足しています。
 上記のカンボジア税法第7条の規定においては、「事業者(Enterprise)」の定義が重要になります。なぜなら、ある者が事業者に該当するのか否かが、この事業所得税の対象となるか否かの重要な要件の一つとなるからです。
 上記の「事業者」の定義に関連して、カンボジア税法第3条第7項に「事業(Business)」の定義が、「事業とは、ある者による、資産の製造及び販売、役務の提供、資産の賃貸及び譲渡その他の取引から収益を得る事を目的とした経済活動(Economic Activity)」と規定されています。また、この定義中の「経済活動(Economic Activity)」の定義として、カンボジア税法第88条にて、「経済活動とは、ある者による、収益を得る目的で、他の者に対して、資産の販売又は役務の提供を行うことによってなされる、反復的(Regular)、継続的(Continuous)又は時々(Occasionally)行われる活動」と規定されています。
 カンボジア税法や省令の規定ぶりは、用語の使用について統一が不十分で不明瞭な点がありますが、「事業」を行う者が「事業者」であり、「事業者」の行う活動から稼得された全ての所得が、資本等取引を除き、全て事業所得税の対象であるとの解釈が出来ます。そして「事業」の定義は、前掲のとおり、「時々」を含むなど幅広く、将来的に税務当局の事業所得税の運用方針が変わり、現在は特に申告が実務として求められていない所得についても、課税がなされる余地があります。例えば、コンドミニアムの区分所有権を購入、賃貸し、賃貸収入を得る場合等についても、この賃貸収入を事業所得税の対象として、税務登録が求められる可能性があります。

カンボジア税務当局へのVAT還付申請手続

 輸出を主な事業内容とする事業者、QIPの認定を受けた事業者、繰越仮払VATが連続して3ヶ月以上発生した事業者は、仮払VATの還付申請をする事ができます。申請は、毎月のVAT申告書に還付請求額を記載する欄があり、そこに記載し申告書を提出する事によって、行うことができます。
 上記での還付請求後、税務署よりVAT還付請求前税務調査の通知(Notification of VAT Refund Audit Visit)が届き、関連資料の用意が求められます。関連資料の内容には以下のようなものがあります。
・ 輸入税関申告書
・ 輸入関税納税証明書
・ 期末在庫表
・ 在庫表
・ 該当期間の月次申告に添付された仕入一覧及び売上一覧
・ 経費及び売上請求書
・ 該当期間のVAT申告書
・ 輸出税関申告書
 還付までの期間について、税法では還付申請月の翌月末迄に還付を行わなければならないとされていますが(Article 41, Paragraph 3, Sub-Decree on VAT)、実務上は、還付の前に上記の税務調査が行われる為、現実には運用されていません。
 該当期間の月次VAT申告にて申告されている仮払VATについて、国内仕入あれば税法上の要件を満たしたVATインボイス、輸入であれば輸入税関申告書の原本を保持している事が還付を受けるための最低限の条件となります。
 なお、繰越仮払VATが連続して3ヶ月以上発生した事業者については、税法上は還付を受ける資格がありますが、現状税務当局は輸出事業者やQIP認定事業者の方を優先して扱っているようです。

カンボジアでの税法違反への罰則 ②刑事罰

 カンボジア税法上、税法上の刑事犯については、経済財政大臣の承認のもと、租税総局長は検察当局への刑事告発を行わなければなりません(カンボジア税法第134条)。但し、この規定は後述の税務職員による税法違反には適用されません。
 以下にカンボジア税法が規定する刑事犯を列挙します。

・ 脱税
 カンボジア税法127条に規定する脱税にあたる行為を行った者やその代理人。
 1千万リエル以上2千万リエル以下の罰金若しくは1年以上5年以下の懲役又はその双方

・ 税法執行に対する妨害
 カンボジア税法128条に規定する税法執行に対する妨害にあたる行為を行った者。
 5百万リエル以上1千万リエル以下の罰金若しくは1ヶ月以上1年以下の懲役又はその双方

・ 幇助及び教唆
 他の者に対してカンボジア税法上の刑事犯にあたる行為を故意で幇助したり教唆したりした者。
 自らがそのカンボジア税法上の刑事犯にあたる行為を行った場合と、同じ刑罰が科せられる。

・ 秘匿情報の漏洩
 カンボジア税法94条に規定する秘匿情報の漏洩を行った者。
 5百万リエル以上1千万リエル以下の罰金若しくは1ヶ月以上1年以下の懲役又はその双方

・ 税務職員による税法違反
 税法執行にあたり、自身の立場を利用して、納税者等から金銭や何らかの便益の供与を受けた者、正当な理由なく徴税行為を行ったり試みたりした者等。
 5百万リエル以上1千万リエル以下の罰金若しくは1ヶ月以上1年以下の懲役又はその双方

 以上の刑事犯のうち、特に脱税と税法執行の妨害については、行政罰の適用要件と刑事罰の適用要件が同じであり、刑事罰が懲役刑も含む重いものとなっている事を考えると、非常に問題が大きいと考えられます。

カンボジアでの税法違反への罰則 ①行政罰

 前回触れましたとおり、カンボジア税法上、税法への違反について、その違反の性質や程度により、過失(Negligence)、重過失(Serious negligence)、脱税(Tax evasion)、税法執行の妨害(Obstructing the Implementation of Tax Law)の4つの種別が定められておりますが、今回は罰則規定について、説明します。

・ 過少申告加算税 (Additional Tax for Underpayment of Tax)
 納税額が過少であった場合の加算税について、その違反が過失による場合は、過少であった金額の10%が加算税となります。また、その違反が重過失による場合は、過少であった金額の25%が加算税となります。(過失及び重過失の要件については、前回コラム参照)
 また、申告の問題等により、税務署の決定により税額が決定した場合(Unilateral Tax Assessment)は、過少であった金額の40%が加算税となります。
 また、上記いずれの場合でも、納めるべきであった月の次月の月初から起算して、月2%の延滞利息が課されます。

・ 延滞加算税、無申告加算税 (Additional Tax for Late Tax Payment)
 納期限迄に納付されなかった場合は、延滞加算税として、納めるべきであった税額の10%が課されます。また督促状(A reminder letter of notification for tax collection)を受領後、15日以内に納付がされなかった場合は、納めるべきであった税額の25%が課されます。また、申告納税がなされなかった結果、税務署の決定により税額が決定した場合は、その決定された額の40%が加算税となります。
 また、上記いずれの場合でも、納めるべきであった月の次月の月初から起算して、月2%の延滞利息が課されます。

・ 税法執行の妨害にかかる加算税 (Additional Tax for the Obstruction of the Implementation of Tax Law)
 税法執行の妨害(Obstructing the Implementation of Tax Law)にあたる行為を行った場合は、申告納税方式(Real Regime System of Taxation)の納税者については、2百万リエル(約500ドル)、推計課税方式(Estimated Regime System of Taxation)の納税者については、50万リエル(約125ドル)が加算税として課されます。
 この税法執行の妨害については、納税者については適切な会計記録やその他証憑類の保管等を怠った場合等9つの要件が税法上定められてはおりますが、現在税務当局により非常に幅広く解釈、適用されており、最も指摘を受けやすい罰則のうちの一つとなっています。

 以上はいずれもいわゆる行政罰にあたるものですが、次回は、主に刑事罰について説明したいと思います。